クライマーズ・ハイ


命を追った、あの夏




日本の夏、御巣鷹の夏


日本人の脳裏にこびりつく、あの暑い夏の日に起きた忌まわしき記憶
あの坂本九が死亡したり、女子高生の救出シーンで有名な日航御巣鷹山墜落事件
その事件自体というよりは、それを巡る報道機関が繰り広げる群像劇


今となってはありえないほどのワーカホリック達の繰り広げるドロドロとした権力闘争
過去に類をみないほど大規模な航空機事故を目の前に繰り広げられる人間ドラマ
或る者は狂い、或る者は闘い、或る者は絶望し、或る者は敗北した


クライマーズ・ハイとは、「登山者の興奮状態が極限まで達し、恐怖感が麻痺してしまう状態のこと」である
当時の記者たちはきっと手柄というスクープを得るために、遺族の感情を無視し、
スクープのためだけに奔走していた状態を比喩したのではないか―


ただ一人、クライマーズ・ハイになれなかったその男
世紀のスクープをあえて取り逃したあの判断
堺正人の言う「出来過ぎている」という直感が間違いではなかったという事は、
事件の事を少しでもググってみれば分かる事だ


ただ少しだけ感じたのは無駄な話が多いこと
主人公の家族の話や新聞社の社長の話は本当に必要だったのか―?
少し話がごちゃごちゃになりすぎているので、もう少し的を絞った方が良かった気がする


とは言え、日本の近代史においても大きな航空機事故
きっと僕らの父親の世代には印象強いその事件を取り扱いながらも、
僕らの世代さえも楽しめた事は評価したい


最初に事件を取材した男の書いた事件雑観
それは、修羅場をくぐりぬけ必死の思いで駆け抜けた事故現場を体験しているからこそ書ける文章だ
これを見て心を揺さぶられたのは、自分だけではない、思わず僕は涙をぬぐったのだった―




若い自衛官は仁王立ちしていた。
両手でしっかりと、小さな女の子を抱えていた。
赤い、トンボの髪飾り。青い、水色のワンピース。
小麦色の、細い右手が、だらりと垂れ下がっていた。


自衛官は天を仰いだ。
空はあんなに青いというのに。
雲はぽっかり浮かんでいるというのに。
鳥は囀り、風は悠々と尾根を渡っていくというのに。


自衛官は地獄に目を落とした。
そのどこかにあるはずの、
女の子の左手を捜してあげねばならなかった―。