Kingdom:キングダム -見えざる敵-


<9.11>―あの日以降、今も続く見えない敵との終わらない戦い
最も危険な領域にFBIスペシャリストが加入する




サウジアラビアという名のタブー


サウジアラビアの外国人居住区で起きた大規模な爆破テロ
そこに巻き込まれた同志の復讐に向かう4人のFBI捜査官
どこに敵がいるかも分からない、敵か味方かも分からない中東で、
彼らはテロの首謀者を捕まえる事が出来るのか―


この作品は1996年中東サウジ・ダーランでのホバルタワー爆破事件を中心に、
2003年リヤドでの合成物爆破事件や翌年に起こるホバルでの大虐殺など、
サウジアラビアでのテロ事件にインスパイアされた作品


一度見ただけでは、あの頃のハリウッドの定番だった中東戦争を描く茶番劇に見えるこの作品だが、
同じ中東でも敢えてサウジアラビアを選んでいる事で、マイケル・マンの本気が伺える
そもそも、サッカーくらいでしか関心のなかったサウジアラビアというキングダムが、
治安の悪く、貧富の差が恐ろしく激しい国である事に驚きなのは、
つまるところ、今までそういった作品が製作されなかったという事なのだ


それは、アメリカとサウジアラビアの関係こそが、中東戦争最大の皮肉でありタブーであったから
冒頭のシークエンスでもある911の首謀者の大半がサウジアラビア人である事やビン・ラディンの出生国である事、
そして何より、中東でのテロ行為における抜け道として利用されているのがサウジアラビアであり、
そんな国家と同盟国を結んでいるのが何を隠そうアメリカなのである


テロを国家の敵としているアメリカとそんなテロを支援するサウジアラビア
そんな本来対立すべき2国が同盟で結ばれているのは、石油利益という堅い鎖
これこそが今の中東の皮肉であり、タブーである。


また、この作品は実際の事件や出来事をオマージュしているところが面白く、
例えばサウジに乗り込む手段として行った恐喝まがいの行為なんかは中東戦争においての定番
さらに序盤でジェイミー・フォックスが事件を知ったシーンは、有名な911を聞いたブッシュの様子のオマージュ
ラストの展開や銃撃戦の派手さの裏に、こういった描写が味気なくサラッと盛り込まれる
分かる者にしか分からないメッセージを伝える軽薄に見えて、実は重厚な作品
これを90分という短さにまとめられているところ、さすがはマイケル・マン


「奴らを皆殺しにする... 」
その言葉が意味するものとはいったい何か?
復讐する者、復讐される者たちの暴力の連鎖を世界は誰も止める事が出来ない
ある一部分を切り取ってみれば正義の味方も、歴史と言う大きな視野で見つめた時、
そこにいた正義の味方に対して、全く同じ事が言えるだろうか


主人公達がテロの実行犯を倒しても、敵は「これでは小さな勝利だ」と言い放つ
テロの首謀者を倒した所で、起爆装置から分かる根本的な原因を倒さない限り、
この作品で起きた事も「小さな勝利」なのである


そして、ここにおける「奴ら」とは何もアメリカに限った事ではない
劇中にふと耳にする、我々に一番聞き慣れた言葉を聞き逃すわけにはいかない